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グリーフとジェネレートは表裏一体

· ジェネレーター研究講座

11月21日(金)に行われた We are Generators ジェネレーター研究講座のレポートです。

今回、登場してくださったのは、株式会社ジーエスアイの代表取締役で、一般社団法人グリーフサポート研究所の代表を務める橋爪謙一郎さんです。

橋爪さんとの出「遇」い

橋爪さんと私、市川とは、十年以上も前に東京コミュニティスクールで、死を鏡として生きることを考える「いのちの学び」をつくるときに出「遇」いました。

このときに生まれた学びが、井庭 崇(編)『クリエイティブ・ラーニング』でも紹介した、『個の尊厳』です。30年後におっちゃん(市川のこと)が天寿をまっとうしたと設定し、子どもたちもおっちゃんもその30年間をどう生きるかを、「人生楽ありゃ苦もあるさ年表」を作成して「妄想」します。

とはいえなかなか年表を埋めることはできません。これからどう歩むかを十代前半の子どもたちが簡単にイメージできないのがむしろ当然。大人である私も同じ。残された30年をどう歩むのかを本気で考えるのは一朝一夕にはできません。

そのときに橋爪さんと話し合って生まれたアイデアが、劇作家つかこうへいさんの演出手法のように「口立て(即興で演じながらだんだんなりきってゆき、そこで思わず口にしてしまったやりとりを劇にする)」でした。つまり、あらかじめの台本はなく、おっちゃんがそんな生き方をして、友達がこんなことをして、世の中にもしこういうことが起きたとしたら、自分はこうするだろうから、おっちゃんの葬儀で再会したとき、きっとこう口走るだろうと劇を何度も何度も繰り返し演じながら深めてゆきました。するとセリフの背景となる人生がだんだんはっきりしてきて、年表がどんどん充実してくるのです。

学びの最後には「葬儀場面での劇」を演じ、「おっちゃんへの弔辞」を読んで幕を閉じます。この段階になると、演じている子どもたちは中高年に完全に「なりきって」おり、先人であるおっちゃんの死と志を受け止め、生きる存在になっているのです。

これをきっかけに、私と橋爪さんは意気投合し、それぞれの専門分野は違ってもどこか融合する発想が生まれるに違いないと考え、常に意見交換しながら歩んできました。

グリーフってなんだ? フタをして感情を閉じ込める

橋爪さんは、一般企業でサラリーマンをした後、アメリカに留学し、エンバーミングという遺体修復・保存の方法を学びました。日本にアメリカの最先端のエンバーミング技術をもたらした第一人者が橋爪さんなのです(橋爪さんがモデルとなって、漫画『死化粧師』がつくられ、ドラマ化もされました。また上野樹里・山口智子が出演し話題となった『監察医朝顔』も監修しました)。

その後、カリフォルニアの大学院に進学し、グリーフ・サポートを学び、この分野では世界を代表する恩師に教えを受けました。

今回、初めてグリーフという言葉を知った人も多いかもしれません。グリーフという英語を直訳すると「悲嘆」です。

・自分にとって大切な人との死別・離別

・病気や事故のせいで能力を失うこと

・自分が思い描いていたことが理不尽な体験で実現できなくなること

などによって私達は深い喪失感に襲われ、「グリーフ」と呼ばれる悲しみの中に突き落とされます。

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橋爪さんは、グリーフによって心のフタが閉ざされ、様々な感情・思い・考えが閉じ込められ、表出されなくなるととらえました。思いっきり泣いたり、悪態をついたり、助けを求めたりして、思いを外に出すことでグリーフは軽減されますが、それができなくなり、外見は落ち着いて見えても、深いグリーフを抱えて生き続けてしまいます。するといつか破綻し、肉体的にも精神的にも大きなダメージをこうむるのです。

もし、そのふたが開いて、抱えている感情・思い・考えが表出されれば、グリーフと折り合いをつけて生きてゆくプロセスが始まります。しかし、社会常識や個人の価値観が邪魔をしてフタを開かせようとしません。そんな状況の個人に寄り添い、単にアドバイスしたり、カウンセリングして聞き役になったりするのではなく、ほんのわずかな光も見逃さず、その光の存在を信じて、ともに歩むことを辞さない。それが橋爪さんの「グリーフサポート」なのです。

グリーフと好奇心は表裏一体

カンのよい人は、この橋爪さんのアプローチを知って、なるほど「グリーフ」のプロセスと「ジェネレート」のプロセスは似ているかもしれないと気づいたかもしれません。

そもそもグリーフは、なくそうと思ってもなくせる感情ではありませんし、人生は、グリーフを抱えながら生きるものだと言えるでしょう。不可避なグリーフを抱えながら、自分なりの道を歩む。そのためには自分の置かれた状況をまずは直視し、そこでの率直な思いを誰かに語るところからスタートするしかありません。

なんとなく気になったことを、こんなこと言ったら変だと思われる、と思わずに素直に口にする。これは私がいつもやっている「好奇心駆動」でプロジェクトに取り組むときの基本作法です。

好奇心にフタがされているので、それをまずは開いて、思いつきを語る。こう考えると、心の表出プロセスというコインの表が「好奇心」なら、裏が「グリーフ」で、常に表裏一体となっていることがわかるでしょう。

グリーフから逃げずに、それを糧になんとか生きてゆこうと試行錯誤できるのは、好奇心によって「つら楽しい」プロセスを歩もうと思えるからです。グリーフと寄り添い、ともに妄想を語りながら、きっとそういうやり方もあるに違いないと信じている存在は、まさに「ジェネレーター」ではないですか。

コラボレーション&コミュニケーションしてグリーフプロセスを歩む

悲しみと思いの吐露のプロセスをいったりきたりするうちに、自分を誰かに委ねて、支えてもらおうとする余裕も生まれます。コラボレーションしようという姿勢がジェネレートするのです。こうして語り合ってコミュニケーションを積み重ねてゆくうちに「自分なりの意味のようなもの」が見えてくるのです。

しかし、生きている限り、完全なる安逸の瞬間は訪れません。理不尽な目にあいながら、自暴自棄にならず生きていくのは本当に大変なことです。だからこそお互いジェネレートしあって支え合わなければなりません。それが「グリーフサポート」なのです。

グリーフと折り合いをつけるプロセスは、堂々巡りをしているようで実はスパイラルアップしています。コラボレーションとコミュニケーションをしっかり積み重ねてゆかない限り、意味など見ええません。これまたキャシーの言う「6Cs」と重なりますね。

こうして橋爪さんと語り合う3時間のドキュメントを通じて、「2つのG グリーフ・サポートとジェネレート」のつながりが見事に浮かび上がりました。実際の対談では、さらに「好奇心」と重なる「グッド・グリーフ・シンプトム」の8つの局面を知ることができます。「グッド」な「グリーフ」があると想定するところからも、「病気」や「障害」ではなく、普遍的な認知プロセスだということがわかるでしょう。

どんどん盛り上がり、いろいろ気づき、ジェネレートする醍醐味はやはり動画を見ないと伝わりません。ぜひぜひじっくりご覧ください!

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